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ビートルズ解析例 その3

「ビートルズ解析例 その3」をご紹介します。これは拙著「技術系サラリーマンのビートルズ論」の第3章に当たります。

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-落ちこぼれピアニスト-

ピアノ。誰もが知る楽器。完成された楽曲から手軽に楽しめる音楽..と、これほどまでに広く浸透した楽器もない。そして音楽教育においても重要な位置を占めている楽器。人がピアノの魅力を知るきっかけは様々だ。
一般にピアノとは、クラシックあるいは教育音楽として親しまれている。ところが反面、ピアノはロックの道具でもある。
筆者の場合、ピアノはロックにより開眼し、その延長でクラシシックにも首をつっこむことになった、という変り種である。

筆者と音楽との出会いは古い。しかしほろ苦い思い出である。
3年保育の幼稚園にヤマハ音楽教室が出店しており、そこの生徒になった、というか母親にさせられたのが音楽との出会いの最初である。そこでは足踏み式のオルガンが使用されていた。
我が家は1962年にヤマハのピアノを買った。私4歳の時である。母親は近場のピアノ教師では満足せず、歩いて40分近くもかかる所の先生を見つけてきて、私と姉を通わせることにした。従姉妹の関係にある二人の先生であり、私は初級向けを教えるの35歳位のの先生、2歳上の姉はややシニアな中・上級者向けの先生に習うことになった。この二人の先生の家は数十メートル位しか離れていない。週2回、私も姉も母に連れられて寒い日も暑い日も、雨の日もせっせと通う。母の大変さもさることながら、筆者はピアノの練習がイヤでイヤでたまらなかった。ピアノの魅力なんて全く理解していなかったのにつけ、こんな"まじめ"なお稽古ごとをじっとして習うなんて全く性に合わなかった。筆者は幼稚園から小学生の時分は昆虫大好き人間であり、昆虫を求めて外を探検し回っていた。特に夏は最大の活動の時期である。ピアノの練習なんて何の魅力もなかった。
昆虫の中でも特に蝉が好きだった。時期の移り変わりにより種が変わっていく楽しさと、地上に出てからはわずか1~2週間しか命がないという刹那、鳴き声の魅力、そして捕まえることの奥の深さ、などが蝉好きの理由だ。だから、夏のピアノのお稽古ほど馬鹿らしいものはなかった。おまけに、ピアノの先生のお宅はうっそうとした武蔵野の森に囲まれている。夏は蝉の宝庫だ。ピアノの稽古中に希少種のセミが鳴いたりすると、ためらわず先生に向って「セミを捕まえてくる」と言ってピアノを放り出して外に出て行ってしまったものだ。ある日、先生がたまりかねて、筆者と母を前にして説教をした日があった。その日はピアノの練習をほとんどしないで、ほとんどお話だけの日になってしまった。「せっかく習っているんだからもう少しちゃんとやりましょう。」というのが主旨だったと思う。母はえらくバツが悪そうだったが、かの当人はその日はピアノをやらないで済んだことの方がうれしかった。

そのピアノ教室は年に1回東京駅八重洲口前のブリヂストンホールで発表会を開く。子供用スーツを着させられ、蝶ネクタイをさせられ、ピアノを披露させられるのだ。こんなイヤなことはなかった。一度発表会でブルグミューラーの「牧歌」を演奏したことがある。ピアノの発表会では定番のナンバーの一つだ。やさしいようで難しい。全体の流れをうまくつかみ、うまくリズムをとって、うまく強弱をつけないとサマにならないのだ。発表会前、これを何度も練習させられた。なかなかうまく行かないので先生もかなりイライラしていた。先生結構美人だったのだけど、眉間にシワを寄せ、イライラしてピアノの脇を手でコツコツと叩きながら筆者を叱責指導する。おかげで「牧歌」を今弾くと当時どこでつかえたのかはっきり思い出す。大人になった今では、「こうすればよい」というのが理解できるので、あの時よりはうまく弾けるようになった。

姉はそんなに嫌がってはいなかったようだ。中学高学年までピアノを習い、ソナタ位は軽く弾けるようになった。
それにひきかえ筆者は小学校3年位までしかもたなかった。結局何のピアノの魅力も理解しないうちに耐え切れずにやめたのだ。

筆者は今、会えるものならその先生(遠藤先生という)にお会してみたい。もう75歳位になられているはずである。当時困らせた生徒であったことをお詫びするとともに、今やピアノ大好き人間になったことを報告したい。


この延長で、ピアノに限らずクラシック、そして音楽もろもろにほとんど魅力を感じずに小学校、中学校へと進んでいく。ただ人並みに、歌謡曲やグループサウンズに興味を覚え楽しむことにはなった。

さて、ここからがいよいよ我がピアノ人生が転機を迎える。
筆者も人並みに成長し、中学へ進学し、友人と交わり、いろんなことに興味を示していく。中学に入学したのが1970年。ビートルズが劇的な解散をしたのがこの年であり、数々のプログレシブロックの台頭。日本でも洋楽が定着しつつあった。70年代初期の流行りの一つに深夜放送がある。午前1時から5時までの時間、ラジオ各局は人気パーソナリティを配してプログラムを組む。中でもニッポン放送のオールナイトニッポンとTBSの**曜パックが有名だった。パーソナリティの楽しいおしゃべりに始まり、少年少女の悩み事相談、そしてなによりアメリカ、イギリスで流行っているポップスを興味深く紹介してくれる。ビートルズは解散してなお元メンバーのソロ活動も活発だったし、解散前のビートルズの人気も再燃、そしてリアルタイムでのアメリカ、イギリスのポップスの紹介がされる。こんなおもしろい企画はなかった。中学生だからこんな時間に起きていること自体おかしい。しかし、だからこそ、なんとかして週に何度かは頑張って聴き、翌朝眠い目をこすりながら友人たちに誇らしげに、どんな情報を得たかを話す。
そんな状況だったから、当然のごとくビートルズはじめ各種バンドに出会う。
そして我が人生において最大の出会いの3つのうちの1つ。ビートルズ"Let It Be"(以後"LIB"と略す)に出会った。
あれほどまでに毛嫌いし、あれほどまでに万策を講じて逃げ出したピアノが...なんと、なんと、カッコよくもロックの中で使われている。しかも世界中の若者に支持されているという。クソまじめで何の魅力もない音楽教育ではない。音楽教育など受けたことない長髪の若者のメッセージだ。しかも、あれほど嫌ったピアノの音がすごくカッコよく響き渡っている。筆者は感動した。ピアノってこんな使い方があったのか、と。早速我が家のピアノを5年ぶり位にいじり、姉にLIBをどう弾くのか訊いて弾いてみた。なんとかサマになる。ようし!
1971年の初頭だったと思う。ここに筆者のピアノ人生Phase 2がスタートした。

その後ビートルズ自体に興味を覚えることになる。ビートルズのピアノを主に担当するのはポール・マッカートニーであることと、ビートルズのピアノを使った名曲はLIB以外に何曲もあることを知ることになる。
そして、14歳頃からLIBを契機としてビートルズの(主にポールの)ピアノに徹底的に浸透し、結局ポールのピアノ曲の全てを研究することになってしまった。結局筆者は、このミュージシャンの音楽的センスにぞっこん惚れることになる。ベース、自作自演、ボーカル、バンドのあり方、マルチプレイ、そしてこのピアノだ。

まずは、ポールのピアノの魅力を徹底的に紹介することにする。
最初の出会いであるLIBのピアノは、姉に訊いたり、当時の楽譜(シンコーミュージック等)を買ってきたりして弾いてみた。コード進行はわかった。LIBの場合、C-G-Am-F...という進行はわかる。しかし買ってきた楽譜を弾いてもなんかパッとしない。
理由がわかった。しかし、解ったのはなんと大学に入ってから。
ビートルズの、というかポールのピアノのカッコよさは、脊髄をくすぐる(注;筆者の専売特許の表現)響きだ。この秘密が大学時代に解った。例えばLIBの場合。C-G-Am-F...という進行において、AmやFのルート音はト音記号の領域ではなくヘ音記号の領域をとる。つまり、ピアノの真中の「ド」の音よりも下の領域を積極的に使うのだ。LIBの場合、C-G-Am-Am7-Fmaj7-F6..という風に進むことが解った。しかもAm以降のルート音(すなわち右手の親指の位置)はヘ音記号領域だ。こうやって弾くとあのビートルズになる。すごい発見だった。ビートルズファンは何千万、いや何億人もいるだろうけど、この発見をしたファンはせいぜい数百人ではないか..と密かに自負したものである。

はっきり言うとポールのピアノは難しいものではない。基本的にはコード奏法だ。右手で和音を弾き、左手はベース音をオクターブでとる、というシンプルなものがほとんどだ。これに若干の複雑さが加わる。ピアノのごく初歩を習った者であれば、とりかかることができる。ポールのピアノはおそらく世界中のポップスのグループやアーティストの中でも最もやさしいのではないか? それでいて最もポップに聴こえる。なぜ? ポールのピアノの秘密はなんであろうか?

ピアノという楽器、ある意味で特殊である。その1、ピアノは右利き用だ。すなわち主旋律であるト音記号領域を右手で弾くようにできている。左の方は低音領域であり、通常左手で補佐的に弾く。左利きの人は残念ながらお手上げだ。ピアノを弾くのを諦めるか、あるいは仕方なく右利き用に作曲された曲を不利ながら弾くしかない。
ところで、ポール・マッカートニー、ご存じのように左利きである。ポールは子供の頃にピアノは習っていない。ジョージ・マーティン(注;ビートルズ担当のプロデューサー。音楽的にもかなりビートルズに影響を与えた)や周囲のスタッフなどから聞きかじった程度であろう。映画"A Hard Day's Night"にポールがピアノを弾く短いシーンがある。C(だと思う)のコードを弾きながら左手でド-ソ-ド-ソ..と弾くだけなのだが、これがなんともカッコいい。いずれ訪れるビートルズピアノ名曲を量産することを予見させるような素晴らしいシーンだ。

ポールはこの後、自分が左利きであることに素直にピアノに取り組んだものと見られる。自分で試行錯誤しながらロックピアノとしてカッコよい弾き方を追求していったものとみられる。
そこで、いよいよ持論の一つを紹介したい。ポピュラー音楽界においてはピアノが象徴的に使われるシーンは多い。カーペンターズのリチャード・カーペンター、リチャード・クレーダーマン、エルトン・ジョン、ビリー・ジョエル("Honesty"で有名な人)..等等は素晴らしいピアノを聴かせてくれる。しかし、ポールのピアノに比べると「脊髄への響き」においてはイマイチなのだ。子供の頃嫌ったクラシックピアノに通ずる「優等生音楽」を感じてしまう。おそらくこれらピアノ名手たちは右利きなのであろう、ト音記号領域中心の弾き方なのに違いない。多分、この領域はロックには訴えないのではないかと思う。
そこでポール、左利きだからピアノの左の方に興味があったのか、へ音記号領域を多用した。そしてベーシストだから低音の使い方もうまかったのであろう。LIBのC-G-Am-Am7-Fmaj7-F6..におけるAm以降の位置取りだ。これがポールピアノの真髄だ。この方法をビートルズ名曲のピアノ随所に取り入れることになる。有名な"Hey Jude"のFのコードの右手和音もへ音記号領域で弾く。これをト音記号領域のドファラで弾いても全く感じが出ない。

ところで、少し前(80年代?)まではポピュラー音楽の楽譜というのは、メインメロとコード進行は正しく載ってはいても、伴奏楽器(ピアノやギター)の音の構成はちゃんと書いていなかった。ピアノの音符もそれなりには書いてあるが、コードの構成音を適当にちりばめただけである。だから楽譜を弾いてもそれなりには弾き語りはできるが、あくまで「それなりに」だ。だから、アーティストどおりに弾くにはコピー能力を問われた。なお、最近は絶対的ポジションまでを正確に記したフルスコアバンドが出回っているから、今の音楽ファンはコピーで苦労することはない。
そんなわけで、ポールピアノの低音の位置取りを発見した時はうれしかった。LIB以外でもいろいろ弾いてみるとすごくビートルズらしく聴こえる。とにかくうれしかった。しかも、左手を心もち強く弾くともっとよい。

それと、もう1つピアノの重要な点、それは強弱とリズムだ。ピアノは弦楽器でもあるがギターやバイオリンのように弦の張力や微妙な音の高低や爪弾き方に個性を出すことはできない。あくまでハンマーが弦を叩く強弱とリズムのみに個性が出せる。ある意味で打楽器に似ている。
強弱とリズムにおいてはポールのスキルとセンスは高い。これはなかなかマネできない。まず、ポールはもともと天性の高いリズム感をもっている。映画などを見ていればおわかりになると思うが、ポールには体内リズムマシーンがあるかのごとく正確なリズムを、しかも余裕をもって、とることができる。強弱の付けかたも一流だ。正確なリズムとメリハリ、そしてさらに微妙な間の取り方。この点においてはポールは超一流だ。シンプルなコード奏法の割にはなかなか真似できない理由の1つがこれであると考える。筆者の場合も、LIBは中学以来今に至るまでそれこそ何千回も弾き語りをやったが、未だにポールのレベルに追いつけない。その1つがリズムとメリハリなのだと思う。

以上2点が、ポールのピアノを特徴付ける大きな点と言えそうだが、これだけではない。まずはコード進行。作曲家としてのセンスの高いコード進行はいろんな曲に見られる。具体例は後で紹介する。
そして、コードにおいて実際ピアノのどの鍵盤を叩くか、ポジショニング(位置取り)の点がセンスがいい。

そしてさらに、装飾音を施してジャズっぽい雰囲気を醸し出したりデキシー風にしてみたり、と。シンプルな弾き方なのに完成度の高い音楽のように聴かせてしまうテクニックがある。これも具体例は後で紹介する。

そしてポールのピアノ弾き語りの最後の特徴は歌とピアノとの連携である。弾き語りの最大の難しさは手(楽器)と声(歌)を別々に制御することだ。この2つは別人のように操らなければならない。単純なリズムの曲なら易しいが、少しでも複雑になると互いにつられるようになってしまう。ポールはこの点、特に他のミュージシャンに比べて取り立てて抜きん出ているとも思わないが、一流の能力を持っている。

以上、述べて来たポール・マッカートニーのピアノの特徴をまとめると、次のようになる。

1.低音重視
2.強弱とリズム
3.コード進行の素晴らしさ
4.ポジショニング
5.シンプルな装飾音の付与
6.歌との連携

だれでも参加できるようなシンプルな奏法だが、いざやってみると奥が深い。ピアノをこういう楽しみ方で接することこそ、筆者が一生の趣味として魅力を感じる点である。先日ラジオで、「佐渡おけさ・・なんとか会・会長」という人が出ていて、「佐渡おけさは誰にでも気軽に歌えるのだが、完成させたものに持っていくには奥が深く難しい。だから魅力が大きい。」と言っていた。筆者が協調したいこともこの点だ。なにごともこのことが大事ではないだろうか。

以下、具体例を交えてポールの、ビートルズのピアノ曲を紹介していく。少し長くなるがご勘弁いただきたい。

ビートルズの曲にピアノが登場したのは結構初期からある。しかし、上で述べたポールの考えによるピアノの導入は中期以降だ。1965年の"Rubber Soul"の"You Won't See Me"では感じのよいピアノが登場するが、これはポールによるプレイではないとのこと。1966年の"Revolver"の"Good Day Sunshine"あたりが最初か? しかし、上で述べたスタイルを本格的に確立した最初の曲は1967年の"The Fool On The Hill"ではないだろうか。この曲はリコーダー(小学生の縦笛)がやけに目だってしまう曲だが、実はピアノがよい。数年前に発売されたCD"Beatles Anthology 2"ではこの曲がピアノ弾き語りだけで録音されている。あっ、こんな素敵なピアノだったんだ、と目からウロコのテイクであった。低音を重視し、ペダルもうまく使って、迫力のあるコード奏法が聴ける。是非お薦めのテイクだ。

ロック界の名盤中の名盤"Sergent Peppers Lonely Hearts Club Band"はビートルズの音楽の粋が集められている。ピアノも多く取り入れられている。"Lovely Rita"という曲。この曲は全てがたまらなくカッコいい。こういう曲と知り合えてよかった、と思わせる曲である。この曲では珍しくピアノの間奏(メロディー奏法)が登場する。そしてそれがカッコよい。ジョージ・マーティンによる演奏というウワサもあるが、筆者は多分ポールが弾いていると思う。
ところでこの曲、あまりに気に入ったので、「もし女の子が生まれたら"Rita"と名づけよう」と考えた。しかしRitaじゃ可愛そうだから、"Risa"くらいが落としどころかな、と考えた。筆者高校生の時である。なんともませた高校生である。そしてさらにませたことには、その娘が大きくなって物事を理解できるようになったらそのいきさつを話す、というシナリオまで考えていた。果たして実際の娘が生まれ、このことをいつ話そうと悩んでいた。実際はものごとそう甘いものではなく、もし娘にこんなことを言ったらバカにされるのではないかとも考えた。そして1年ほど前、その時があっけなくやってきた。あまりかしこまって言うのもよくないから、車の中で"Sergent..."のテープを聴いている時、この曲になった時、おもむろに..「実はね..リサっていうのはこの曲からとったんだ..」と。すると、「ふ~ん」というふうに、思ったよりも神妙に聞いていた。ちなみに、筆者の姉の通っていた高校の先生はお嬢さんにリタと名付けたそうである。「理太」と書くとのこと。もしかして、その名の由来は筆者と同じだったのかもしれない。
話が脱線してしまった。脱線ついでに、我々の結婚式のキャンドルサービスは、ビートルズの(作者は別だがビートルズのLPに納められている)"Till There Was You"を会場エレクトーン奏者に弾いてもらった。意外に素敵に弾いてくれたので感謝している。

次は1968年の"Lady Madonna"。この曲はLIBの次に筆者にインパクトを与えた重要な曲である。若干ジャズの要素を感じ、しかも軽快なポップスは単にロックの域を脱してポップスにおける名曲となっている。
この曲のピアノは非常に完成度の高いプロフェッショナルなものに聴こえる。ジョージ・マーティンあるいは他のピアノの名手が弾いているというウワサもあったが、実はポールが弾いているのである。この曲のピアノは、高校の時姉に手伝ってもらってコピーした。なんと驚くなかれ、すごいシンプルなピアノであることがわかった。キーはAだが、それに簡単な装飾音であるブルーノートのCナチュラルをオカズ的に加えるだけだ。CナチュラルとC#をスラー的に弾くとあのジャズ的なカッコよいフレーズになる。サビの部分では、Dm-G-Cというコード進行に合わせて左手が1音ずつ下がって行き、また上がって行くという独特な進行をとる。簡単だが、実にカッコよい。ちなみにポールは、1音ずつ、あるいは半音ずつ下がっていく(和音も根音も)というのをその後かなり試すようになり、名曲も残すことになる。
この"Lady Madonna"をマスターしてからは意気揚揚となった。実にカッコよい曲を弾ける、しかもシンプルな奏法で。まさにコロンブスの卵的発想の曲。
ところが、歌をちゃんと歌うのは難しい。例えば出だしの"Lady Madonna, children at your feet"というところ。左手がA-C-C#-Dと上がっていくのだが、歌は下がる。しかもピアノと歌のリズムが同期していない。どうしても歌がピアノにつられるのだ。この曲ももう30年間弾いて来ているが、歌がいまだにつられていまう。2年前のアメリカツアーの映像を見たが、ポールは余裕綽々でこの曲を弾き語っていた。歌も全くつられていない。このあたりがプロとアマの差であろう。

お次は同じく1968年の"Hey Jude"。最も売れたビートルズの曲としてあまりに有名だ。この曲の魅力は、基本的なコード進行がよい上に、上で述べた低音重視奏法とポジショニングがよいことにつきる。テクニック的にはなんら難しくはないのにこんなに素晴らしく聴こえる名曲の中でも代表的なものといえよう。この曲は、最後のリフレインだけでフルオケによる何分もの演奏になっていくというバカげた一面も持っている。大学のサークルの時、ある夏合宿の夜、同期のFというヤツとこのリフレインを夜通し続けたことがある。もちろん飲みながら。

ところで、この頃のビートルズのレコードはミキシング的にはまだそれほど複雑なものではなかった。例えば、ピアノの音は左右どちらかのチャンネルに9割位押し込められている。1983~84年頃、筆者は、このことを利用して、ビートルズの曲のピアノの入っているチャンネルをつぶし、そこへ自分のピアノを押し込めてテープに落とす、というようなことを楽しんでいた。あたかもビートルズが筆者のピアノに合わせて歌っているような状態になる。筆者が今のカミさんと付き合っていた時、そんなテープをプレゼントした。ついでに、ビートルズの初期の頃は、片チャンネルはボーカルだけなんてのもよくあったので、自分のボーカルに置き換えたようなテープもプレゼントした。カミさんによると、「何か変だな」とは思ったそうだったが、まさか筆者が演奏あるいは歌っていたとは夢にも思わなかったそうである。

1968年はビートルズは"The Beatles"(通称"White Albun")という二枚組みのアルバムをリリースする。数年前から大変お世話になり、そして最近では音楽のみならず実に様々なことで薫陶を与えてくれるEさんによると、このアルバムを評して「音の宝石箱」。
ポールピアノの真髄も聴ける。"Honey Pie"、"Ob-La-Di, Ob-La-Da"など。シンプルなのに完成度が高く聴こえるのが"Martha My Dear"だ。

いよいよ年は1969年へ入っていく。実質上のビートルズとしての最後の活動の年だ。
まずは、映画撮影と並行してLIBが作られていく。LIBの中ではピアノ曲としては、主題曲である"Let It Be"と"The Long And Winding Road"が代表的なものである。"The Long..."はなかなか難しい曲だ。これも基本はコード奏法ではあるが、さすがにこの曲は専門的な和音が使われていたり、複雑なリズムがあったりと、プロフェッショナルな曲だ。ポールもこの曲ばかりはかなり気合を入れて作ったものと思われる。しかもピアノで全て表現しようとしたのだと思う。ゆえにあの有名な話、プロデューサー フィル・スペクターがオケによるオーバーアレンジを行ったことに激怒したこと、その気持ちはわかる。Eさんからお借りした"Let It Be Naked"には映画LIBと同じ、オケのないバンド演奏のない"The Long..."が聞けた。なかなかよくて、ポールの言うこともある程度わかる。しかしフィルのアレンジも悪くない。特に、冒頭"The long and winding road.."と歌った直後に変則和音で「ジャジャーン、ジャジャーン」とやるところ、あそこはピアノとギターだけでは貧相だ。
この曲に限っては筆者のレベルはまだまだだ。位置取りも完全にコピれていないし、とにかく歌が難しい。映画LIBで、"LIB"と"The Long..."をポールは余裕のプレイで弾き語っている。

余談だが、1990年にポールが東京ドームで公演を行った時、観に行った。最初苦労してチケットを買ったのだが、ポール側の都合で急遽その日のスケジュールがキャンセルされてしまった。筆者はもう諦めていたのだが、なんとカミさんが電話をかけまくってチケットを取り直してくれた。このコンサートは本当に感動した。映画やビデオやTVのシーンや、いろんなところでポールのピアノを見て聴いてあこがれ、自分でも何千回も弾いたピアノが。その実物が同じ空間上で初めて演奏される。ポールによる"The long and winding road..ジャジャーン、ジャジャーン"が始まるや、筆者は感無量で泣いてしまった。

話は戻り、1969年9月ビートルズ最後のアルバム"Abbey Road"が発売された。このアルバムでも素晴らしいピアノが何曲も聴ける。
まず、"Oh Darling!"。この曲は本当にカッコよい。12/8拍子というリズムも独特でおもしろい(なお、12/8拍子は1970代の沢田研二のなんとかいう曲でも採用された)。ピアノそのものは比較的シンプルな和音奏法なので、すぐに弾けるようになる。問題はボーカルだ。キーが高い。特に一番最後の"I never do you no harm."のdoのところ。五線譜の上から2番目のレではなく、その1オクターブ上のレである。おそらくビートルズの全ての曲の中で最も高いボーカルの音である。しかもこの音をガナり立てる。愛の強いメッセージの歌だから仕方ないのであろうが、普通は出したくても出せない音である。ポールはこの曲をレコーディングしたために声帯をつぶしたのではないか? 解散後のポールの歌声はイマイチハリがない。なお、筆者も若い頃はこのレの音にチャレンジしたことがある。筆者もキーが高い方だがポールの高さにはなかなか追いつけない。声は使わないとすぐに出なくなるから、そろそろ50に届くオヤジではあるが、なるべくキーの高い歌を敢えて歌うことにしている。狙い目としては"Surgent Peppers"のテーマ曲位が丁度いい練習対象だ。
"Abbey Road"には"Maxwell's Silver Hammer"というシンプルでカッコよい曲もある。そしてB面の"You Never Give Me Your Money"に始まる名メドレーだ。これは楽譜の世話になったが弾けるようになった。

さてさて、ポールの話ばかりしてしまったが、ビートルズのポール以外のメンバーもピアノやキーボードをやることを忘れてはならない。
ジョン・レノンはポールと並んで類稀なるミュージシャンの一人であるとともに様々な芸術的センス、そして生活そのものもアーティストと呼ぶにふさわしい人だと思う。ジョンの話は別途書いてみたい。
ジョンのピアノやキーボードへの取り組みはポールとは少し違っていて、ロックンロールの伴奏楽器として初期から捉えていたようだ。"Rock'n'roll Music"や"Little Child"のピアノはジョンがレコーディングしたかどうかは知らないが、少なくともジョンが好んでいたピアノであったことは間違いないだろう。ビートルズ日本公演ではジョンによる"I'm Down"演奏用にオルガンが置かれていたが、結局一度も弾かれることはなかった。
結局ジョンは中~後期にはポールほどピアノやキーボードに興味を示さなかった。しかし解散直後の"Imagine"のピアノはとても美しい。このピアノはヘ音記号領域である。そう、ポールの得意とする技法である。ポールの技法をパクった、とは言いたくないが、少なくとも、解散前はこの技法はポールの専売特許のようになっていたからジョンとしてやりにくかったものと思われる。とにかく"Imagine"はいいピアノだ。筆者の得意曲の一角を占めている。

映画LIBの1シーンで、ポールとリンゴが仲良くピアノを即興的に弾くシーンがある。ポールが低音部を両手で、リンゴが高音部を「左手」で弾く。そう、知る人ぞ知る、リンゴも左利きなのだ。世界的グループの中に左利きが2名(50%)もいたことは興味深い。
よくリンゴは音楽的に大したことがないように言われることがあるが、そんなことはないと思う。本業のドラムだって大したものだ。このピアノのシーンを見て、「ああやはりリンゴもプロのミュージシャンなんだな」とつくづく思った。

1964年の"She's A Woman"にも実はピアノが使われている。注意して聴かないと聞き逃す位のピアノだが、「かくし味」的に使われていて、もしこれがないとこの曲のよさが半減しそうなピアノだ。おそらくポールのアイデアのピアノだろうが、これと中期以降のポールのピアノとの関係はよくわからない。

以上、ポールを中心とするビートルズのピアノのことを書いてきた。ビートルズ全213曲のうち、ピアノが使われている曲を正確に数えたことはないが、50曲くらいであろうか? 一時はそのほとんどを暗譜し詩も覚えて、弾き語りできるようになったが、今はかなり忘れてしまった。でも今でも"LIB"、"Hey Jude"、"Lady Madonna"の三種の神器は完璧にすぐ弾けるし、おそらく20~30曲はなんらかの形で披露できるのではないかと思う。

ビートルズの曲というのはいろんな音楽のエッセンスがあって、全体が完結している気がする。いろいろなバリエーションがあって厭きないのである。極論すると、ビートルズ全体を知ると音楽全体のかなりの部分を知ることになる。
キーも様々に設定されている。ロック系は基本はA。"Hey Jude"はF、"Ob-La-Di"はB♭、"The Long.."はE♭、と多彩だ。キーには色があるようだ。C(ハ長調)は学校教育を思い出す。例のおじぎの伴奏だ。そして事実ビートルズにおいてもまじめ的な曲がCには多い。"Hello Good-by"、"LIB"など。1つわからないのは、キーの設定もビートルズ自身が考えたのか、それともジョージ・マーティンあたりがsuggestionしたのか。もしビートルズ自身が考えたのだとすると、これはもう天才としか言いようがない。
いずれにしてもビートルズのピアノは、頑張ればコピーできるのがありがたい。

ポール・マッカートニーは、ビートルズ解散後もウィングスとして、あるいはソロとして多くのピアノ曲を残す。当然筆者もそれらの多くが好きだ。とても全部を紹介しきれないので、代表的なもののみ記す。

まず、解散した年1970年に初のソロアルバム"McCartney"を出す。自分で全ての楽器を演奏して録音するマルチプレイだ。それ自体ワクワクするほど興味深いことだ。脱線するが、加山雄三(62歳)が今度「オール・バイ・マイセルフ」という完全マルチプレイのCDを出すとのこと。うれしいじゃないか。62になってもこんなことをやろうなんて。筆者も負けてはいられない。
さて、ソロアルバム"McCartney"の中に"Maybe I'm Amazed"という名曲がある。ポールがコンサートで必ず取り上げる曲だ。この曲のピアノは変化に富んでいる。コード進行が。B♭から半音ずつ下がっていくかと思えば5度変わる、といった変化、変化の曲だ。このめまぐるしい曲のコードを筆者は、自分の耳だけでコピーできたことがすごくうれしかった。

1973年の"My Love"。これも名曲だ。LIB、"Hey Jude"、"Lady Madonna"の特徴を合わせたような曲だ。

1975年のアルバム"Venus And Mars"にもいいピアノ曲がいっぱいある。"You Gave Me The Answer"。これは"Lady Madonna"的な意義をもつ曲だ。シンプルだがすごく完成した曲に聴こえる。Aから半音ずる下がるコード進行もポールの18番だ。
同アルバムの"Rock Show"もいい。最後のピアノのシーンが圧巻だ。まずは左手でのAのオクターブでリズムを取り、そこへ右手のAのコードの構成音にブルーノートのCを加えながら、ロックの様相を呈していく。シンプルでカッコよくて力強い。「ポールのロックピアノここにあり」だ。

ビートルズ関係のピアノはこれで終わる。
ロックにおいてピアノを強調したグループの中で筆者が好きなものの1つにシカゴがある。ロバート・ラムというピアノ奏者がいた。おそらく右利きであろうが、わりと低音を効かせてハギレのよいピアノを聴かせていた。
中でも、1972年の"Saturday In The Park"のピアノ、特にイントロのピアノがカッコいい。へ音記号領域でパンチのあるピアノだ。そして適度の不協和音が混ざっていて小気味よい。
シカゴはジャズの要素を少しだけ取り入れた音楽を聴かせてくれる。これをマスターするとちょっと大人っぽい弾き語りができる。
シングルのB面の名曲"Color My World"は素晴らしい。ロックではなくバラードだが、コード進行がすばらしい。この曲も自分の耳だけでコピーした。

さらにジャズぽいミュージシャンとしてはクルセイダーズのジョー・サンプルがいる。さずがにここまで来ると楽譜なしにはコピーは難しい。頑張って"It Happnes Everyday"と"ど忘れしたが有名な曲"をマスターした。これは大人っぽく、カッコいい。

日本国内ではカシオペアの"Cross Point"収められている"Sunny Side Feelin'"がいい。ベーシスト桜井哲夫が作った曲だが、ピアノがいい。これは、左手で伴奏、右手でメロディーなのだが、なぜか五感に訴えるのである。なぜだろうか。この曲は是非マスターしたいと思っている。

これ以外では日本ではあまり注目したポップスピアノはないが、ユーミンの「雨音に気付いて..」で始まる曲のピアノは素晴らしい。
最近では綾戸智絵のピアノが迫力があっていい。一歩間違えると変なオバチャンだが。


さて、ここまで、ビートルズを中心とするポップスピアノについて書いてきた。
筆者の中で毛嫌いしていたクラシックのピアノはどうなったいったのだろうか。

時は1978年。大学3年の時。
スタンリー・キューブリックの有名な映画"2001 A Space Odyssey"が久しぶりにリバイバル公開されることになった。サークルの同期の友人M君に触発されて、この映画をサークルの同期の女子学生と一緒に見に行った。たしか有楽座かどこかの東京一デカイ映画館で、70mmフルスクリーンで上映した。一面変な映画ではあるが、筆者はこの映画にぞっこん惚れ込むことになる。大劇場で大画面、まるで自ら宇宙にいるような感覚で映画が楽しめる。そして何より音楽(サウンドトラック)だ。すべて使う音楽はクラシックから使うという大胆な発想がまずすごい。一番印象的なのは、宇宙ステーションを紹介する時に流れるヨハン・シュトラウスⅡ世の「美しく青きドナウ」だ。漆黒の宇宙に遊ぶステーションがこのワルツに乗って回転しているようだった。そして登場する女性乗組員の優雅な姿。その全てが、あたかもこのシーンのために作られた曲のようであった。もちろんこの曲は以前から知っていたが、なんか、さえない曲という印象しかなかった。しかしこの映画を見て全く変わった。筆者がクラシックなるものに最初に興味を覚えた瞬間であった。

これを機にシュトラウスはじめいろんなクラシックのレコードを買い、聴いていくようになる。
クラシックの中にも、そしてクラシックピアノの中でも自分の好みにあう音もあることもわかった。うれしかった。
ただし、やはり、どうしても受け入れられない部分もあることもわかった。

そして、「美しく青きドナウ」をピアノで弾いてみたくなった。「全音ピアノピース」から楽譜が出ている。この曲はランクBだ。(Dが一番難しい。ショパンはほとんどがD)。Bならなんとかかじりついて弾ける。「美しく青きドナウ」をなんとか弾けるようになり、うれしかった。有名な「エリーゼのために」もBだ。ベートーベン「月光」はCだが、第1楽章は比較的やさしいのでなんとか弾けた。
クラシックはまだまだ未開拓な分野だが、これからどんどん挑戦して行こうと思っている。

もっともっと友人達と話し、感化を得て、自分の音楽観を広げたいと思う。
さらに自作も心がけたいと思う。
一時、自作自演にあこがれて、高校の頃曲作りを試みたことがあったが、ろくなものができず頓挫してしまった。

今では当時より多少なりとも音楽観が広がったので、少しは自作もしやすくなったのでは、と期待する。挑戦してみたい。


以上
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テーマ : ビートルズ関連
ジャンル : 音楽

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ST Rockerさん こんばんは♪( ´▽`)
STさんのピアノ歴史
娘さんの名前の由来
桜ようかんの 言葉では 上手く表現できませんが 今の ピアノが上手なSTさんの過去を知れば知るほど ブログタイトルに 1番ピッタリの方だと思います♪( ´▽`)
蝉好き少年〜♪♪♪ 少年時代のお話しに ほっこりしました〜♪
桜ようかんも、夏になると蝉を捕まえて 数日 家でカゴに入れて眺めたり 鳴き声を聞くのが好きな少女でした(笑)
それと、遅くなりましたが ご丁寧な鍵コメお礼メッセージ☆ ありがとうございました‼︎ STさんに、メッセージ頂くと エネルギーが湧いてきますo(^_^)o

桜ようかんさん

こんばんは。
「落ちこぼれピアニスト」読んでいただいたんですね。
超超うれしいです(^^)

たしかにこのシリーズは気合入れて書いたんですよ。
もう10年前に書いたんです。
桜ようかんさん、ちょっとほめ過ぎですけど、僕の子供の頃の感じがよく出ているでしょ。
桜ようかんさんも蝉を・・・
奇遇ですね。
若い頃、共通点多いですね。

コメントの件もありがとうございます。
そう言っていただけるとこちらこそ元気が出ますよ。
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ST Rocker

Author:ST Rocker
ビートルズ解析ブログへようこそ!
つくば-千葉-さいたま の三角形を行き来していますす。
モットー:理系なのに熱く音楽、政治・経済を語る。
酒と冒険と音楽をこの上なく愛し波乱万丈の人生を送るB型です。
コメントは本筋に沿ったものをお願いします。

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